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COVID-19 流行下における SARS-CoV-2 ワクチン開発を考える

公開日 01-09-2020 カテゴリ

COVID-19 パンデミック下での安全かつ効果的なSARS-CoV-2ワクチン開発は複雑なプロセスです。本稿ではワクチンを作成するために必要な手順についてご紹介します。
(原記事:”Considerations for Developing a SARS-CoV-2 Vaccine During the COVID-19 Pandemic” | Nicole Jensen, 医学博士(MD) | 2020年6月30日公開)

*米国の薬事制度に則って書かれた記事のため、日本の制度とは一部異なる場合がございます

一般的にワクチンの開発は、長く困難なプロセスです。しかし、COVID-19が世界的流行を見せている中、世界は「今」SARS-CoV-2ワクチンを必要としています。

ワクチン設計はまず、病原体からワクチンの標的つまり「目的となる抗原」を特定することから始まります。SARS-CoV-2の表面はスパイクタンパク質に覆われており、ヒトACE2受容体との相互作用でヒト細胞に侵入します。幸いにも、SARS-CoV-1とMERS-CoVに関する過去の研究から、SARS-CoV-2表面のスパイクタンパク質が理想的なワクチンの標的であろうということは分かっています。SARS-CoV-2に対する免疫を生成するため、ワクチンは、SARS-CoV-2がヒト細胞に感染するのを防ぐT細胞や(結合抗体だけでなく)中和抗体をも含めて、スパイクタンパク質に対する強力かつバランスのとれた免疫反応を誘発する必要があります。

SARS-CoV-2への免疫応答を発動する宿主免疫細胞(i.e. 抗原提示細胞;APC)にスパイクタンパク質を送達するプラットフォームは複数存在しています。SARS-CoV-2ワクチンが取り得る選択肢としては whole pathogen vaccines (attenuated or inactivated) / subunit vaccines / nucleic acid vaccines / viral vector vaccinesがあり、それぞれに利点と欠点があります:

  • whole pathogen vaccines(ウイルスそのものを用いたワクチン)は、弱毒化(弱体化)または不活化された(死滅させた)ウイルスで構成されているため、病気を引き起こすことはありません。
    • 弱毒生ワクチンを作るには、異種宿主(動物/組織培養/発育卵)に生きたウイルスを導入して、新しい宿主内で繁殖するための多くの変異を獲得させる必要があります。これによりウイルスは新しい宿主に適応し、元の宿主(ヒト/ワクチン接種対象)に害を及ぼすことはなくなりますが、このプロセスには時間がかかります。 また生ワクチンは強力な免疫応答を生み出しますが、免疫不全の対象もしくは妊婦には一般的に禁忌となってしまうという欠点も持ち合わせています。
    • 不活化(死滅)ワクチンは、化学物質、熱もしくは放射線でウイルスを死滅させるため、大量の感染性物質を扱う必要があります。またスパイクタンパク質を完全な状態で保つことは、効果的かつ安全なワクチンを作る上で重要ですが、ウイルスを不活化するプロセスはそれを困難にする可能性があります。

  • Subunit vaccinesは whole pathogen vaccinesとは異なり、免疫を刺激するために病原体全体ではなく、特定の抗原(スパイクタンパク質)のみを宿主免疫細胞に送達します。ただし効き目が弱いためアジュバントの添加が必要で、世界的な生産能力が制限される可能性があります。

  • nucleic acid vaccines(DNAワクチン)は、特定の抗原のみを独占的に送達するという点でサブユニットワクチンに類似していますが、抗原の送達をコードする遺伝子遺伝物質によって行います。体内の細胞はこの遺伝物質(プラスミドに含まれるDNA/脂質ナノ粒子に含まれるRNA/良性ウイルスに含まれる核酸のいずれか)を使用して、目的の抗原を生成します。

    • DNAもしくはRNAワクチンはスケールアップが容易で、感染性物質を扱う必要もありません。しかし、ヒトへの使用が承認されたDNAまたはRNAワクチンはまだ開発されていないため、それらを製造および流通させるためのまったく新しいインフラが必要となります。またDNAワクチンは変異原性の可能性もありますが、RNAワクチンはそのリスクを回避できます。
    • viral vector vaccines(ウィルスベクターワクチン)は、良性のウイルスを介して遺伝物質をヒト細胞に運びます。これは、既存のヒト使用が承認されている唯一のDNAワクチンです(=エボラ出血熱に対するウイルスベクターワクチン:ERVEBO)。ウイルスベクターワクチンの開発では、ワクチンの有効性を損なう可能性のあるウイルスベクターに対する既存の免疫を考慮することが重要となります。

ワクチンの候補 (Candidate vaccines) が設計されたら、使用が承認される前に、いくつかの試験を通過する必要があります。ワクチン候補は、まず動物を対象とした非臨床試験で安全性・免疫原性および有効性の評価が行われます。その後、第I相試験からはじまる人体に対する治験の承認がおります。第Ⅰ相試験では、少人数の健康な成人グループにおける安全性・反応原性(注射部位の痛み・発赤・発熱などの典型的なワクチンの副反応)・免疫原性・投薬スケジュール・投薬量を評価します。
第Ⅱ相試験は第Ⅰ相試験をスケールアップしたもので、効果を示すと予想される(ターゲットとなる)集団を含めて行われます。ワクチン候補の有効性は、第III相試験で最終的に評価されます。そして新しいワクチンがアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を受けると、長期的な安全性と有効性を評価する第IV相試験に進みます。

通常、これらの各ステップは、数年とは言わないまでも数か月かかることがあり、順を追って進行していきます。平均して、非臨床試験と臨床試験(治験)はあわせて15〜20年かかります。SARS-CoV-2に関しては、幸い、またいくつかの理由から、大幅な時間短縮が図られています。理由とは、まずSARS-COV-1とMERS-CoVの研究から大量のデータが得られていること、また、世界が同じ目標に向かって取り組んでいることです。世界保健機関(WHO) によると、原記事が執筆された2020年6月時点で、141のワクチン候補が存在し、そのうち16が既に治験に入っています。非臨床試験と臨床試験も重複し始めており、タイムラインは圧縮されています。また、大勢の志願者と迅速な承認が、(通常だと2035年までかかる見込みのところ)2021年半ばまでのワクチン完成をより現実的なものしています。

にもかかわらず、今後の開発には重大な課題と潜在的なリスクもあります。皮肉なことに、社会的距離やその他感染拡大を防止するメカニズム(マスクや手洗い)が新規感染の速度を遅くしてしまうと、ワクチン候補が第III相試験で有効性を示すのは難しいかもしれません。 これを回避する1つの方法としては、医療従事者・密集した環境に住んでいる人・工場などの密な接触が伴う環境で働くエッセンシャルワーカーなど、SARS-COV-2感染のリスクが拡大している条件下の人々を第III相試験に参加させることです。また倫理的に問題がありますが、参加者にワクチン候補を接種した上で意図的にSARS-CoV-2に曝露させる試験(Human Challenge Trials)を実施するという選択肢もあります。

Human Challenge Trialsはさておき、ワクチン候補の接種によって抗体依存性感染増強(ADE)が引き起こされる潜在的なリスクもあります。ADEは、非中和性抗体もしくは結合抗体とウイルスが結合することで、ウイルスの細胞への侵入を促進し感染力と毒性の増加につながる現象で、SARS-CoV-2のワクチン候補を作るにあたって、スパイクタンパク質を完全な状態で維持することが非常に重要である理由の1つです。スパイクタンパク質の変化は、最終的に抗体を中和する代わりに結合につながる可能性があるのです。

通常、ワクチンの製造は臨床試験終了後に開始されます。しかしながら、CEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations)やアメリカ生物医学先端研究開発局(Biomedical Advanced Research and Development Authority ;BARDA)をはじめとする一部は、SARS-COV-2のワクチン完成を見越して製造ラインに対する先行投資を行っています。そして最終的には投資が流通を促進します。 これに対するため、WHOはワクチンへの公平なアクセスを確保するためのグローバル・イニシアチブを立ち上げ、CEPIなどの団体や世界中の国々が支援を約束しています。

現実的にみて、世界的な需要に応えるためには複数のワクチンが必要です。複数のワクチンを利用可能にすることで、製造時のボトルネックを防ぎ、別のワクチンが特定の集団で高い効果を示す可能性も生まれます。 様々な障害にも関わらず、SARS-CoV-2の最初の症例報告からわずか6か月でみせた進展の大きさを考えると、将来、安全で効果的なSARS-CoV-2ワクチンが開発される希望の余地は確かにあるといえるでしょう。

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